index > 素敵な廃墟 > 第一グランドホテル |
何かに呼ばれたような気がしてアタシは自転車を走らせたの。冬の風が冷たかったわ。 途中で雨が降ってきたわ。天気予報は降水確率30%と言っていたのに、その30%に当たってしまうなんて。 雨の中ペダルをこぐのは淋しいわ。泣いていい? 神戸の三宮というところにあるそのホテルは全壊していたの。 かつてはこうしてその入り口を見せていたのだけど、 今日見たら封鎖されていたわ。誰かが騒ぎを起こしたのかしら。もしそうなのだとしたら死に値する罪だわ。 世の中には何も悪いことをしていないのに生きられない人だっているのに、なんでクズが手厚く保護されるのかしら。 このバリケードが撤去されるときはこのホテルが解体されるときね。冬の風が冷たいわ。 その焼肉屋は狂牛病騒ぎを受けて閉店に追い込まれたの。何日も休業した後の、突然の閉店。 そう、当初は「堺東へ移転しました」という張り紙がしてあったのよ。でも何時の間にか消えていたわ。 ちょっと見にくいけど、観葉植物の残骸みたい。植木鉢の周りに落ちたものが痛々しいわ。 この店には観葉植物の他に色々なものが残されているの。 調味料、コップ、おしぼり。 ちょっと見にくいけど、これ野菜なのよ。丁寧にラップをかけてあるわ。何故放置されているのかしら。 野菜なんて置いていかないと思わない? 夜逃げの匂いがするわ。空は晴れてきたのに。 しかしそれより「美味しいのは罪だ」というキャッチコピーが泣かせるわ。そう、罪、罪なのだけど、牛に罪は無いわ。 アタシ、何度かこの店へお食事に行きましたけどおしぼりなんて出してもらったことありませんわよ。 夜の客にしか出さなかったのかしら。 ここの店員さんはすごくいい人だったのよ。今はどこで何をやってらっしゃるのかしら。 その信用組合は銀行に吸収されてしまったの。この建物には誰も居なくなったわ。 社員の車を停めるところよ。でも、もう誰も車を入れない。落ち葉が積もるばかり。 通用門よ。社員はここから出入りしていたの。何か文字が消されたような跡があるけど、あそこには何か書かれていたのかしら。 落描きが酷いわ。廃墟には落描きが付き物だけど、なかなかスケールの小さい落描きね。まぁ、歩道に面しているしね。 でもこれ、白い落描きはこの信用組合が機能していたとき既にあったものよ。誰も消そうと思わなかったのかしら。 廃墟になる前から廃墟の匂いを漂わせていたのね。 このまま朽ちていくのかしら。でもアタシはそれでいいと思うわ。思い出は永遠に残しておきたいもの。 信用組合を後にしたアタシはルミナリエ会場へ向かったの。震災で犠牲になった人の魂を鎮めるために始まった行事なのよ。 永遠の中学二年生になったあのコの魂もここで輝いているのかしら? 墓参りもしなくて悪かったわね。 ところで会場ってどこなのかしら? あちこち走り回ったけど見付からなくてよ。 するとこんな集団を発見したの。きっとルミナリエ防衛隊ね。心正しき見物客をクズから守るのが仕事よ。 写真には少ししか写っていないけれど、実際はこの2倍以上の人数が居たわ。 どれだけすごいところなのかと思ったけれど、初めて見たルミナリエは意外なほどスケールの小さいものだったわ。 たった二車線の道路で行われていたのね。もっと広い道路なのかと思っていたわ。そして昼間に見るルミナリエはただの骨組み。 初めてのルミナリエが曇り空の昼間だなんて間違ってるかしらアタシ。 でも、夜になればきっと美しく輝くのでしょうね。そのころには人がいっぱいよ。自転車は邪魔だわ。 あー、女の子といちゃいちゃしながら歩きてー。いえいえ、アタシおしとやかですわよ。 アタシを呼んだのは何だったのかしら。定期券を使って電車で行けばいいところを何故アタシは自転車を走らせたのかしら。 帰りに虎屋吉末の丁稚羊羹を買ったわ。ここの丁稚羊羹は逸品よ。御影へ寄った際は是非立ち寄るべきよ。 アタシを呼んだのは羊羹だったのかも知れないわ。 少し肌寒い雨上がりの午後。 |
|