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冬の海を見たくなった。 私は電車に乗り込んだ。 南京町を抜けて海へ向かう。 ほら、海はすぐそこに。 中年の男性がハーモニカを吹いている。 冬の海。曇り空。ハーモニカの音色。 これほど淋しいことがあるか。 軽やかなメロディなのに、何故これほど淋しさを誘うのか。 居たたまれなくなって、あまり行ったことのないメリケンパークに足を向ける。 朝だからか、常になのか、人は少ない。 するとそこに。 生々しい記憶がよみがえってくる。 傷痕。 ここだけ、当時のまま、保存されているのだ。 他は綺麗に修復されているのに。 あの日を忘れないために。 かつては灯りが点ったのであろうが、もう、点ることはない。 最後に灯りが点った夜、ここには誰が居たのだろう? この場所は、わざと修復せずに保存されている。 言わば、見せ物。 あのときの傷は、もう現実ではない。 過去の思い出なのだ。 港を後にし、いつか見た廃ホテルへ向かう。 ホテルシェレナを見上げる。 それは未だ、悠然とそこにある。 が、入り口が封鎖されている。何があったのだろう? 腕を伸ばしてバリケード越しに。 ガラスが割られている。 貴重な廃墟を破壊するなんてどうかしてる。 そりゃ私だって入ってみたいけどさ、破壊まではしない。 破壊してまで侵入しようとする者は消えてしまえ。 以前撮影したときはフラッシュを焚いてしまったが今回は焚かずに撮影。 色々と放置されている。 かつてここは何だったのだろう? カーテンの隙間から。 立派そうな階段が見える。 あの階段はどこへ通じているのだろう。 最後の夜、誰が、どのような格好であそこを上ったのだろう。 そして、いつもの火曜日だったはずの明日に何を思っていたのだろう。 想い出は、静かに佇み続ける。 |
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