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2012/05/01 古 >>
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「白麒麟」(キリン)
そのとき私は当時付き合っていた恋人と日本海から帰る列車の中にいた。ささやかな小旅行。列車の中で弁当でも買って食べようという思惑は見事に外れ、車内販売のない特急列車は淡々と南へ向かっていた。 次の駅で十分ほど停車するというアナウンスに私たちは顔を合わせた。駅に売店くらいあるだろう。私たちは走り、目に付いた弁当と缶ビールを手に取った。選んでいる余裕はない。
「白麒麟」と「冬物語」。
冬が近くなると発売されるビールだ。ビールに目覚め始めていた恋人は二つを飲み比べ、こっちの方が美味しいと言い、味の違いが分かるようになったかと笑い合った。
美味しいと言ったのはどっちだったろうか……。もう覚えていない。ただ、思い出だけが無様にさまよっている。
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